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ジャンヌ速報 柊つかさが精神科に入院した。

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柊つかさが精神科に入院した。 




1 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 02:00:58.78  ID:Vehv+UveO
「……以上、精神保健指定医の診察の結果、柊つかささんは精神保健福祉法第23条により、措置入院となります」
保健師さんが淡々と告げる。
「入院加療により、回復に努めてください」








3 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 02:10:12.79  ID:Vehv+UveO
白い診察室。白衣の人々。
お医者さんの前に座っているつかさ以上に、後ろのソファーにいる私達家族の方が呆然としていた。

あのつかさが?精神病院に入院?
これはなんの冗談なの?私は悪い夢を見てるの?
つかさが私の方を振り返り、弱々しく笑った。

「お姉ちゃん……この人、なに言ってるの?」




5 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 02:20:28.86  ID:Vehv+UveO
つかさのやつれた笑顔を見ながら、私は現実を認めようと努力する。

私の双子の妹の柊つかさは、心を病んでいる。そう、そのために入院しなければならない。

ただそれだけの話なのに、私の頭の中では『精神病院』『入院』『妹』という単語がグルグル回っているだけで、まるで理解には程遠い。
横に座っているお父さんもお母さんも、いのり姉さんもまつり姉さんも、私と大差の無い、困惑した表情をしていた。




7 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 02:29:04.28  ID:Vehv+UveO
「御家族の方も、よろしいですね?」
つかさに入院を告げた保健師さんが立ったまま、お父さんとお母さんに向かって尋ねる。

「え……ええ……」
「入院って……そのどのくらい……」
お父さんはうまく話せないみたいにうなずく。
お母さんは、お医者さんに向かって小さな声で聞いた。

「それは娘さんの症状の回復次第です。まずは入院して、治療する事が先決ですね」

お医者さんは笑顔で優しく話しているのに、なぜか響きが冷たく感じられた。




9 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 02:38:12.47  ID:Vehv+UveO
「では御家族の方は入院の手続きをしていただいてから病棟の方に行っていただきます」
お医者さんは机の上のカルテや書類のような物をまとめながら言った。
「ではご本人だけ、先に病棟へ行き入院していただきます」

その時、つかさがきっぱり言った。
「病院に入院なんてしない。私、お父さんとお母さんとお姉ちゃんたちと、おうちに帰る」
「つかさ……」
お母さんが、涙の滲んだ目を拭った。

「お母さん、いっしょに帰ろう?私、ここに居たくないよ」




12 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 02:51:00.52  ID:Vehv+UveO
「柊つかささん。先程も説明したように」
保健師さんが諭すように、つかさにたくさん文字が印刷された書類を見せる。
「あなたは精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第23条により、都道府県知事に申請された」
「そんなの知らないってば!!」

つかさが爆発的に叫び、保健師さんの持っていた紙を手で払った。
気が弱く内気だった双子の妹が、ここ最近時折見せる、乱暴な仕草。
「私はどこも悪くない!病気じゃないし、入院なんてしないよ!!」
つかさは椅子から立ち上がり、私達家族の方へ歩いてこようとした。
にっこり笑って、私達に言う。
「ねえ、いっしょに帰ろう?私、今夜はカレーがいいなぁ」




16 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 02:59:16.82  ID:Vehv+UveO
「つかさ……」

お父さんもお母さんも、まつりお姉さんも困惑した表情でつかさを見ることしかできない。
いつもマイペースで冷静ないのり姉さんでさえ、私やお医者さんに救いを求めるように目線を動かすだけ。
そう、つかさより誰より、私達家族の方が混乱しきっていた。

「お姉ちゃん、どうしたの?」
つかさが小首を傾げて、私を見る。

「まさかお姉ちゃんまで、私が病気なんて思ってないよね?」

いつの間にか診察室には、白衣を着た看護師さん達がたくさん集まっていて、私達家族を見つめていた。




20 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 03:10:41.52  ID:Vehv+UveO
「……つかさ」
私は唾液を一回飲み込むと、双子の妹に向かって言った。双子だからこそ、姉だからこそ、言わなくては。

「私もお医者さんや保健師が言ったみたいに、入院したほうがいいと思う。入院して、悪いところを治して」
「私に悪いところなんてないよ!!」
怒声のような悲鳴のようなつかさの声が、私の言葉をかき消した。
「私は悪くない!どこも悪くないのにお姉ちゃんまでなんでどうして私のことみんなでみんなして」

目を閉じ耳をふさぎ、立ったまま呪文を唱えるように喋るつかさ。黙る私達家族。

そんな私達を見ていたお医者さんが、看護師さんたちに向けて頷き、そしてお父さんとお母さんに言った。

「ご本人が興奮しないよう、眠っていただいてから病棟に入っていただきます。よろしいですね?」
お父さんが曖昧に頭を下げた後、それは始まった。




24 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 03:23:53.99  ID:Vehv+UveO
急に白い服を着た人々で視界が埋まった。

「な、なにするの!?離して!!触らないでよ!!」
つかさの悲鳴が、白衣の壁の向こうから聞こえる。

「大丈夫ですよ」「落ち着いて」「はい、力を抜いてくださーい」
男女入り混じった看護師さんたちはみんな優しい声で穏和な笑顔で、だから余計に手慣れた感じでつかさを押さえ込んでいるのが恐かった。

「いやだ!いやだってば!!なにするのよ!?離してよ!離せぇ!!」
いつの間にかつかさは、診察ベッドの上に仰向けに押さえ込まれていた。

私達家族はただ呆気に取られたまま、中腰でそれを眺めているだけ。
「助けて!お母さん、お父さん助けて!私なにも悪いことしてないよ!!」
つかさが叫ぶ。
「なんでみんなこんなことするの!?やっぱりみんな私のこと嫌いなの!?」
今度は、私が耳を塞ぎたかった。




25 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 03:36:48.12  ID:Vehv+UveO
つかさは押さえ込まれたまま、叫び続ける。
「やっぱりみんな私のこと嫌いなんだ!だから私にイジワルするんだ!!」
白衣のすきまから、つかさの顔が見える。
あの優しくて、内気で、素直だったつかさ。
その表情はまるで悪い何かに取り憑かれているとしか見えなかった。

「嫌い!みんな嫌いだよ!お父さんもお母さんもいのりお姉ちゃんもまつりお姉ちゃんも!!」
お母さんは口を両手で覆い、涙を流してつかさを見つめていた。
いつの間にかお医者さんが、マンガに出てくるような大きな注射器を持っていた。
「こなちゃんもゆきちゃんも、お姉ちゃんも、みんな、みんな大嫌い!!」
注射器から伸びる、管とその先についた奇妙なツマミのついた短い針。

「全部大嫌い!!みんな、みんな、死んじゃえぇぇ!!」

喉から血が出そうな勢いで、つかさは叫んだ。




26 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 03:47:21.03  ID:Vehv+UveO
「いゃあ!痛い!痛いってば!!なにしてるの!?止めてよぉ!」

お医者さんって、あんなに簡単に注射できるものなの?
「ゆっくり入れるから呼吸注意してー」「サーキュレータ繋げました」「血液逆流OKでーす」

必死で暴れようとするつかさ。絶句したままそれを見つめる私達家族。
病院の人達はまるで対照的に淡々としていて、冷静だった。

「止めてぇ!お母さん助けてぇ!」
つかさの声に、お母さんが耐えられないようにイスに座り込む。

「いやだ!……なにコレ!?なんの薬入れてるのぉ!?」
「んー、休めるお薬ですよー」
お医者さんの冷静な声に、なぜか怒りさえ感じた。どうして?




31 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 03:58:32.73  ID:Vehv+UveO
やがて、つかさの声がトーンダウンし始めた。

「やめてよ……離して。手が痛いよ、痛いよ……」
涙とヨダレと鼻水で汚れた顔。半分閉じた目。
できるなら、今すぐハンカチで拭いてあげたかった。

「SpO2は?」「96。ちょっと顎上げますか」
なんでそんな平気な声で話せるの?私の大事な双子の妹を押さえつけておいて。

「……眠い。やだ、眠りたくないよ……怖いよ……」
トロン、とした半開きのつかさの目が、私の顔を確かに見た。

「……おねえちゃん……なんで、ないてるの……?」

やがてつかさは目を閉じ、静かに眠り始めた。




35 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 04:16:04.94  ID:Vehv+UveO
つかさは車輪のついた担架みたいな物――ストレッチャーっていうの?――に乗せられて、つかさは診察室を出ていった。
看護師さんもいなくなり、つかさも運ばれていった部屋は静かすぎて逆に耳が痛い気がする。

「……先生、つかさは、あの子は、あの」
お父さんが何か聞こうとしてるけど、さっぱり言葉になってない。多分私でも同じだろうけど。
「はっきりした事は少し入院中の状態を見ないと言えませんが」
お医者さんはカルテに忙しく字を書きながら言う。

「今一番可能性が高いのは統合失調症の急性期ですかね」

え?

「急性一過性精神病性障害かも知れませんが、取り合えず投薬治療を」




38 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 04:27:18.84  ID:Vehv+UveO
「せ、先生!」

私は思いきって声を出した。
「はい?あ、お姉さんですか?」
いかにも頭の良さそうな、オジサンと言うよりお兄さん、という感じのお医者さんが私を見る。

「つかさは、あの……治るんですか?」
一番聴きたくて、そして聞きたくない答えを待つ。
「ん~」お医者さんはちょっと困ったような表情で手を頭の後ろに回した。
「……お薬を試して、それが効くか試してみないと、何とも」
「どれぐらい……入院するんですか?」
「まあ、長くても三ヶ月を目安に考えて――どうしました?」
「かがみ!?」「大丈夫?どうしたのかがみ?」





41 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 04:37:02.49  ID:Vehv+UveO
お医者さんやお父さんやお母さんや姉さん達の声も顔も、頭の中でグルグル回って区別がつかない。

大丈夫?そんなわけ無いじゃない!
お母さんのお腹の中からいっしょだったあの子。
ゆりかごの中で、七五三の写真の中で、幼稚園で小学校で中学校で高校で、いつもいっしょに、笑ったり泣いたり怒ったり許したり。

ガマンできない。あの子と三ヶ月も離れていられない。
膝が冷たい床についていて、お母さんとまつり姉さんから両脇から支えられていて、私はようやく自分が貧血を起こしている事に気がついた。

こうして、私、柊かがみと柊つかさ、双子の姉妹の生まれて初めての別々の生活が始まった。




45 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 04:40:53.83  ID:Vehv+UveO
 >>4
 >>17
やっぱり簡単にわかっちゃうもんだね……ワンパターンだもんねぇ。




48 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 04:55:36.20  ID:Vehv+UveO
私――柊かがみが、双子の妹、つかさの様子がおかしいことに気がついたのは、一ヶ月ほど前だった。

「つかさー、ドア開けるよー」
私はつかさといっしょに世界史の宿題をしようと、妹の部屋に入っていった。
「ん?なにやってんの?つかさ」

つかさはその時、ベッドに腰かけたまま、ぼんやりと天井と壁の会わせ目当たりを見つめていた。
「つかさってば。おーい」
時々こんなふうにボーッとしている子なので、私は現実に帰還させようと頬を人指し指でつついた。
「……あれ?お姉ちゃん?」
つかさはまだボンヤリした目つきで私を見た。
その目の焦点が合っていない気がして、私はなんとなくゾッとした。

思えば、あれが始まりだったんだ。




52 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 05:10:21.72  ID:Vehv+UveO
「つかさ……どこ見てるのよ」
私はなんとなく自分のツインテールの位置を指で直しながら聞いた。

「う~ん」
つかさは焦点の合わない目のままでまた上のほうを見る。
「お姉ちゃんには聞こえない?」
「はあ?何が?」

「あそこからねぇ、私のこと、からかうような声がするんだよ」
「……え?」

私は慌てて、つかさの視線の先を追った。
やはりそこは、なんの変わりも無い、ただの壁だった。




56 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 05:18:37.42  ID:Vehv+UveO
「えっと……からかう声って、今も聞こえてるワケ?」
「うん」
つかさはボンヤリうなずく。うさぎの耳のようなリボンが、それに合わせて揺れた。

「……私には、なにも聞こえないけど」
なんとなく、恐る恐る言う。

「……ふ~ん?」
つかさが不思議そうに首を傾けた。
「そうだね。お姉ちゃんがそういうなら、気のせいかもね」
急にまた焦点の合った目で私を見たのは、もういつものつかさだった。
その笑顔が、逆になぜか恐かった。
「宿題、わからないトコ教えてね?私、できるだけ頑張るから。ね?お姉ちゃん」




61 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 05:29:38.29  ID:Vehv+UveO
それからも違和感を感じる、奇妙な言動が続いた。

「ねぇ、お姉ちゃん」
いっしょに下校する道の途中で、つかさが私に声を掛けてきた。ちなみに、こなたとは駅で別れた後だった。
「ん?どうした?」
「こなちゃんがね、私とお姉ちゃんのお弁当に毒を入れてないかなぁ」

「……はぁ!?」
内容のおかしさより、つかさの口から『毒』なんていう単語が出たことにビックリした。
「なによ、こなたがお弁当に何かイタズラしたの?」
あのこなたでも、さすがに有り得ないだろう。

「イタズラじゃないよ、毒だよ」
あくまでも真剣なつかさの表情。




66 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 05:37:07.94  ID:Vehv+UveO
「あのさぁ、つかさ」
私はちょっと指でこめかみを押さえなが言った。
「ひょっとして、この前から私のこと、からかってる?」
「からかってなんかないよ!!」

私だけじゃなく、無関係な通行人まで振り向くような大きさで、つかさが怒鳴った。
「……ど、どうしたのよ、つかさ」
「お姉ちゃんが毒で死んじゃわないか心配してるのに!なんで信用してくれないの!?」
こんなに早口で大声を出すつかさを見たのは初めてだった。




71 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 05:45:13.53  ID:Vehv+UveO
私はお父さんやお母さんに、つかさのことを相談した。
「つかさも受験が近くて疲れてるんじゃないかな?」
「でも、あの子がかがみに大声だすなんて……考えられないわ」
腕組みしながら楽観的なお父さん。手を頬に当てて心配するお母さん。

でも、本当はその頃からわかってたんだ。

つかさが、もう以前のつかさとは変わってしまったんだって。

私はただ、そのことから目をそらせたくて、時間稼ぎをしているだけなんだって。
そして、その時間がつかさをもっと悪くさせるだけなんだって。

心のどこかでは、わかっていたんだ。




73 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 05:47:59.33  ID:Vehv+UveO
すいません。仕事行く前に少し休みます。
夜仕事終わったら続き書きます。落ちてたら、同じスレタイで立ててみます。




79 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 06:16:30.58  ID:Vehv+UveO
残業無かったら、八時くらいに立ててみたいです。




132 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 20:11:20.19  ID:Vehv+UveO
・・・・・・・・
急に、目がさめた。
「……どこ?ここ」

私は変な部屋にいた。
木目の壁。鉄線入りの窓。床に固定されたベッド。
トイレは金属性の洋式の便器が部屋の隅にあるけど、仕切りもなにもないから、使ったら誰かに見られちゃいそう。
そして、すごく頑丈そうな扉。

「私、なんでこんなところにいるのかな……」

頭がはっきりしない。あの眠くなる注射のせいかな?
「……注射?」

そうだ。私、家のみんなといっしょに病院に来て、へんなおじさんが難しいこと言って、たくさんの看護婦さんに押さえられて――

「ひどい……みんなして、私のこと、騙したんだ」




133 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 20:13:04.08  ID:Vehv+UveO
私をここに閉じ込めるために、みんなで最初から決めてたんだ。

「……お父さんのうそつき。お母さんのうそつき。お姉ちゃんの……」

お姉ちゃんは、無理矢理私が眠らされるのを見て、泣いていた、気がする。

「でもお姉ちゃんも最初から私のこと騙そうとしてたんだ。やっぱりみんな、私をワナにはめようとしてたんだ」

『そうだよ、ワナにはめようとしたんだよ』

「あ……!」

『お前なんか、ここでずっとひとりでいるといいよ』
まただ。ここでも『声』が聞こえる。

『そうだよ。ここでも声は聞こえるよ』

「う、うるさいな!やめてよ!放っておいて!!」

『クスクス』『ほら怒ってる』『騙されて怒ってる』『みんなに嫌われてるよ』
「うるさいうるさいうるさい!!静かにしてよぉ!」




134 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 20:14:34.45  ID:Vehv+UveO
私は耳を両手で塞いだ。
でも『声』は音を電波に切り替えて、頭に直接送ってきた。

『耳塞いでるよ』『無駄なのに』『クスクス』『そんなこともわからないんだ』『ダメな子だからね』『そうだね』

「やめてよぉ!うるさい!黙って!ひとりにしてってば!」

ひとり?私、ひとり?
一人、独り、ひとり、私一人。

壁が急にせまくなった。天井が低くなった。扉が大きくなった。

「いやだ、いやだぁ!!出して!ここから出してよぉ!」
私はベッドから転げ落ちると、扉を手でたたいた。
「開けて!ここどこ!?なんで閉じ込めるの!?」
ガンガン鳴って、手がいたい。
「お母さんに、お姉ちゃんに、みんなに会わせて!私、ウチに帰る!みんなのところに帰るの!!開けて!開けてよぉ!!」

いつのまにか、叩く手の皮が破れて、扉に血の手形がたくさんついていた。




135 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 20:15:52.71  ID:Vehv+UveO
ガチャン、ガチャン!と何かカギの鳴る音がして、扉が開いた。
「目が覚めましたか?柊つかささん……」
私は現れた白い服を着た女の人を押しのけて、部屋から出ようとした。
「出して!どいてください!私、家に帰る!」

でも白い服の人はたくさんいて、私はベッドまで無理矢理押しもどされた。

「落ち着いてください」「ここは保護室といって」「ちゃんと休んでから」「ゆっくり治療しないと」

また『声』が聞こえる。
「やめて!離して!もう騙されないんだから!」
私は手足を振り回した。

「また食べ物や水に毒を入れるつもりなんでしょ!?ここで私のこと殺すつもりなんでしょ!?」
この人たちも『声』の仲間だ。誰かに頼まれて、私に毒を飲まそうとしてるんだ。

「離して、出して!私家に帰る!帰るんだったら!やめてよ!助けてよ!お姉ちゃん、お姉ちゃあん!!」




140 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 20:34:14.63  ID:Vehv+UveO
またベッドの上で白い服の人に押さえられていると、私をここに入れた男の人が来た。
「柊つかささん、あなたはここの閉鎖病棟の保護室でね」「知らないってば!」
きっとこの人も悪い人なんだ。『声』に頼まれて、私のことをダメにするつもりだ。
「このままじゃ危ないねー」「拘束は?」「もうちょっと様子見たいな」
『お前はここにいなきゃダメだよ』『クスクス』『毒を入れられるよ』『死んじゃえ』

「は、離してぇ!私、どこも悪くない!薬も毒もいらない!家に帰らせて、帰らせてよ……」

男の人は、また注射器をもっていた。
「イソゾール?」「0・5を20です」「あんまり入れると、呼吸ヤバいね」「6cc?7cc?」「そのくらい?」

「や、やだ。また眠らされるんでしょ?毒が入ってるんでしょ?」

殺される。毒を入れられて殺される。

「いやだ、いやだぁ!!助けて、こなちゃん!ゆきちゃん!お姉ちゃあん!!」




148 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 22:02:41.58  ID:Vehv+UveO
・・・・・・
「……つかさっ!」

ガバッ!とフトンを跳ねのけて、目覚めた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
カーテンの隙間から朝の日差しが漏れ、光る埃がゆっくりと舞っている。チュンチュン、と雀が鳴いている。
「また、夢……?」
パジャマが寝汗で湿って不快だ。
夢の中で、つかさに会った。
私を罵倒し、泣きじゃくり、そして助けを求めていた。
『なにも悪いことしてないのに、なんでこんなコトするの?』
『お姉ちゃんのうそつき!』
『家に帰りたいよ、助けてよ、お姉ちゃん』

単なる夢なのに、胸が苦しくなるほど生々しかった。

「……起きなくちゃ」
私の、つかさのいない日常が今日も始まった。




150 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 22:20:04.43  ID:Vehv+UveO
汗でぐっしょり濡れたパジャマを洗濯籠に入れて、顔を洗って洗面所を出る。
「あ……おはよう、お母さん」
洗濯物を抱えたお母さんと顔を合わせた。
「……おはよう、かがみ。よく眠れた?」
明らかに自分も寝不足な赤い目で、お母さんが答える。
いや。また、泣いていたのかな。
よく、いのり姉さんと私にそっくりだと言われ、母と言うより姉妹のような感覚で過ごしてきたけど。
私もこんな風に、朝から疲れた顔してるのかな。

「大丈夫。ちゃんと眠っているから」
私は母に無理に作った笑顔を見せると、リビングに向かった。




153 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 22:30:36.73  ID:Vehv+UveO
リビングではもう、お父さんといのり姉さん。まつり姉さんがイスに座っていた。
「おはよう、お父さん。姉さん」
おはよう、うん、う~っすと三つの挨拶が帰ってくる。
私は席に座って朝食を食べ始めた。簡単なメニユー。

お父さんは別にして、いのり姉さんもまつり姉さんも家事にはルーズで、実は私もそこだけは苦手だ。
唯一お母さんの家事を手伝っていたのがつかさだったんだけど、いないんだからお母さんが大変なのはしょうがないよね。

……なにを考えても、最後はつかさの事になる。私は軽く頭を横に降って、パンを食べ始めた。




154 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 22:32:50.84 ID:e94mTl5g0
このシリーズ初めて読んだけど、すごい引き付けられる…
支援





155 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 22:41:07.60 ID:AOKdbUBp0
それにしてもこの病院の医者は、患者の気持ちをよく考えずに淡々と処理しすぎだな・・
いきなり「法律により措置入院させます」なんて言われたら引くわw


自分が患者の家族だったら、入院はやむ終えないとしてもこの病院だけは絶対にお断りだな


>>154
そんなあなたに先月投下されたしゃぶ☆すたをw
ここ最近のVIPらきすたSSでは群を抜いてるw
ttp://vipss.main.jp/haruhi/1226069624.html








156 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 22:44:10.00  ID:Vehv+UveO
「お父さん。そろそろ御朱印書かないと足りないわよ」
私の家――神社――で、巫女をしている一番上の姉、いのり姉さんが言い、同じく神主のお父さんが、ああ、と生返事をする。顔はテレビを向いたまま。
「かがみ、私今夜サークルの集まりあるから、晩御飯いらないって母さんに言っておいて」
二番目の姉のまつり姉さんが私に言う。気楽な大学生……のはずだが、なんとなく今朝はお化粧に気合いが入っていない。

……だれもが注意深く、つかさの話題を避けていて、だからこそ私達が、どれだけ痛感しているかを思い知らされた。
一番下の妹の、不在ゆえの存在感を。




157 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[] 投稿日:2008/12/08(月) 22:49:16.20 ID:LYphkU0UO
柊つかさが精神科に入院した。157  





165 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 23:01:34.29  ID:Vehv+UveO
白い息を吐きながら登校する。
一人での学校までの道のりは、いまだに慣れない。なにか、左右のバランスが取れない不安定感。

「やふー、かがみん。今朝も寒いね~」
駅を出た所で、友人の泉こなたが声をかけてきた。
「……おはよう、こなた」
ほ、と息を吐いて、私は明るい声を出した。

「おんや?今日もつかさは休みなのかな?」
こなたが言った。
「う、うん。まだ体調が……ね」
学校の先生にはともかく、友人たちには、つかさは『体調の不良』で通している。
どうして正直に、精神科に入院してるって言えないんだろう……。
私はふと、基本的な疑問を感じ、すぐに打ち消した。
言えるわけない。親しい友人であればあるほど。




166 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 23:06:41.64  ID:Vehv+UveO
 >>160
思わず窓の外を確認した。真面目に。

ガチャン




169 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 23:20:06.71  ID:Vehv+UveO
「つかさも、この時期に大変だよね~」
こなたは緊張感のない顔と口調で言う。

「そうね……大変」
私は話題もそらせず、曖昧に3センチほどうなずく。

「でさ、かがみ、結局つかさ、どこが悪いの?」
「ん……え?」

いつの間にか、こなたが私の顔を見ていた。
身長が低いので、正確に言うと見上げていた、なんだけど。

「その……勉強頑張りすぎて、あの、ちょっと疲れたみたいで」「そう」

こなたは再び視線を前に戻すと、歩き始めた。
視線が外れる直前、こなたの表情に浮かんでいたのは――失望?
私は慌てて歩調を早め、こなたを追った。




173 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[] 投稿日:2008/12/08(月) 23:35:57.33 ID:LYphkU0UO
柊つかさが精神科に入院した。173






177 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 23:41:29.11  ID:Vehv+UveO
「あー、それでは今日もインフルエンザにかかるのは禁止だぞー」
桜庭先生が相変わらず無茶な言葉を吐いて3年C組から出て行った。

「……ふう」
「おーい、柊ぃ~」
「なによ日下部。宿題なら見せないわよ」
「いや、そんなん違くてよ……」
クラスメイトの日下部みさおが、鼻の頭をポリポリ書きながら言う。
「最近、柊元気無いから、どうしたのかと思ってよー」

……ガサツなヤツだと思ってたけど、やっぱりコイツも女の子ってワケか。
「平気よ。でも心配してくれて、ありがと」
「柊ちゃん、何か力になれる事があったら言ってね?」
日下部の女房役、峰岸あやのも、おっとりと私に言う。
気を遣わせないよう、わざと軽く言ってるんだろうな。
「……うん」半分以上、本気の感謝をこめて、うなずいた。




179 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 23:52:33.32  ID:Vehv+UveO
お昼休み。
「かがみ、お弁当それだけ?ノリ弁じゃん」
「チョココロネよりマシだって」
「ふふふ、このチョココロネにはウインナーソーセージ入りなのだよ」
「……」
「ゴメンさすがに嘘」

相変わらずくだらない会話。いつものお昼の風景。違うのは……。

「……やはり、つかささんがいないと寂しいですね」
3年B組の委員長、高良みゆきがおっとりと話した。




182 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 00:07:09.24  ID:Zmi8Ys0wO
「う……うん」
急にご飯が喉に詰まるような気がした。
「お休みになられてから三日になりますが、お加減はいかがなんでしょうか?」
朝、こなたが聞いたことと同じ内容だ。表現は10倍ぐらい上品だけど。

「まだ……ちょっとかかりそうかな」
私は意識して平静な声を出す。

「かがみさん、私少し以前から気にかかっていたのですが」
「ごめん、こなた、みゆき!」
私はイスから立ち上がった。
「ふえ?」
「どうなさったんですか?」
驚いた表情の二人に、
「私、桜庭先生に頼まれてたことがあったんだ!」
じゃあね、と急いでお弁当を抱え、B組を出た。

怖かった。
つかさが精神科病棟に入院したことがバレることが、じゃない。

友達がみんな優しすぎて、つい弱音を吐いて楽になりたがっている、自分が一番怖かった。




190 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 00:28:40.10  ID:Zmi8Ys0wO
・・・・・・
『また耳を塞いでるよ』『クスクス』『ムダなのにねぇ』

ずっと『声』は私の頭に直接話しかけてくる。
昼も夜も休み無しだから、全然眠れない。
でもいい。眠ってるうちに体に毒を入れられるよりはマシだ。
「負けないんだから……絶対毒なんか飲まないんだから!」
大声を出して、『声』を牽制した。

「柊つかささん、そろそろ食事や水分を取りませんか?」「お薬も飲まないと、退院も難しいですし」

「毒なんていらない!ここではなにもいらないし、欲しくない!家に帰して!お母さんとお姉ちゃんのところに帰してよぉ!」

別の所から聞こえる声にも対抗する。騙されない。みんな、みんな敵だよ!

「……どうする?」「拘束、やるか?」「水分と薬は入るけど……可哀想じゃないですか?」「でも、今のままでもだいぶ辛そうだしなぁ」「……やりますかぁ」
白い服を着た人たちが、またたくさん入ってきた。




202 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 00:52:23.73  ID:Zmi8Ys0wO
「な、なにするのよ!注射なんかしたってムダなんだから!」
少しの間は眠るけど、でも負けない。負けるもんか。

「え……な、なに?」
私はなにか、たくさんベルトがついたベッドに横にならされた。
「柊つかささん。今から拘束帯で体を固定させてもらいますね」
白服の男の人が言う。……固定?

「や……いやだ!!縛られるなんていやだぁ!!」
必死に暴れたけど、たくさんの人がいて抵抗できない。
「やめて!!お願い、離してぇ!!」
お腹に幅の広いベルト、手首、足首にもベルトが回されて、ベッドに黒いボタンのようなもので止められていく。
それから、服を下着を含め、全部脱がされた。
「いやだ……やめて、やめてください、お願い……」
両肩と脇腹にシールみたいのが貼られた。腕に点滴の針が刺された。おしっこの穴にビニールの管が入れられ、オムツをつけられた。
「痛い……痛いよ、助けて、お姉ちゃん、お母さん、助けて……」
枯れたと思った涙が、またどんどん流れてきた。




209 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 01:17:15.44  ID:Zmi8Ys0wO
あっという間に、体中をガチガチに縛られた。
「うわああ、あ、あ、あ、あぁ!!」
全身の力を込めて動こうとしたけど、柔道の服に似た分厚いベルトはビクとも動かない。
「柊つかささん。これで点滴から水分とお薬は入るし、おしっこも寝たままで袋に溜まります」
「ぎ……ぅ」
「便をしたい時には、お尻の下に便器を差し込みますね」
「……」
「ただ、口から食事や水分や薬を飲んでくれれば、拘束する必要も無いんですよ」
「……も、んか」
「だからできるだけ頑張って……え?なんですか」

「……毒なんか、毒なんか食べるもんか!はずせ!コレはずせよぉぉぉ!!」
ベッドがギシギシなる。奥歯が砕けるほど噛み締める。
「点滴もアソコの管も抜け!今すぐ抜けぇ!!帰る!家に帰るんだよおぉぉっ!!」

「……少し、点滴の中のオカズが効いてくるまで、離れよう。興奮させるだけだ」
部屋から、人が全部出ていった。

「ベルトをはずせええぇぇぇぇっ!!」

『クスクス』『いい気味』『ザマァ見ろ』

「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」




213 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 01:23:53.24  ID:Zmi8Ys0wO
今夜はこれで終わりにします。
明日はお昼ごろから続きかきたいです。落ちてたら、同じスレタイで立てさせてもらいます。保守さん&絵師さん。どうもありがとうございます。




251 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 12:16:31.51  ID:Zmi8Ys0wO
・・・・・・
私は重い足取りで、学校から帰宅した。駅でこなたと別れた後は、また独りきり。
「……」
やっぱり慣れない。いつも、私より半歩だけ後ろにいる妹のいない帰り道は。

「……ただいまー」
自宅の玄関を開ける。
「――でも――なんて」
「つかさ――ために――」
ん?なんだろう。
お母さんが泣きながら喋っていて、お父さんがそれを慰めている、感じ?
足早にリビングに向かう。
「お父さん、お母さん、どうしたの?つかさに何かあったの?」

「ああ……おかえり、かがみ」
言ったのはお父さんで、お母さんは涙を流してうつむいている。
「ど、どうしたのよ、お母さん!」
私は慌ててお母さんの脇にしゃがんだ。

「さっき、病院から電話があって……あの子が、つかさがご飯も薬も口にしないから……」
「そ、それで!?なんだって!?」

「……ベッドに拘束して、点滴を流しますって……」
しばらく、こうそく、という言葉が頭の中で変換できなかった。
「こうそく……拘束……?」
頭の中が真っ白になった。
「つかさが、あの子が縛りつけられてるっていうの!?」




252 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 12:17:56.82  ID:Zmi8Ys0wO
お父さんが重い口を開いた。
「先生から電話があってな。このままだと衰弱する一方だし、おとなしく点滴させはしないだろうということで」
「でもあの子が縛られてるなんて……一人ぼっちで……」
お母さんがまた涙を流し始める。
「事前に保護者に伝えると言われて……よろしくお願いします、と言った」

「そ、そんな――」
私もお母さんといっしょに泣き出したかった。
あの怖がりで、さびしがり屋で泣き虫な、つかさがベッドでグルグル巻きにされている光景を想像した。
(お姉ちゃんのうそつき!!)
(痛い!なにするのぉ!!)
(助けて、お姉ちゃん、お姉ちゃぁん!)

「つかさ……」
なんでこんな事になっちゃったの?今までの騒がしくて、でも楽しかった家族六人での生活。
もう、あの頃には戻れないの?




253 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 12:19:18.93  ID:Zmi8Ys0wO
それからどうやって自分の部屋に戻ったのか記憶に無い。
気がつくと私はベッドに横になり、放心して天井を眺めていた。

あの焦点の合わない瞳。
あの奇妙な言葉。
あの唐突な行動。

今から思えば、兆候はたくさんあったんだ。
でも、まさか、つかさがそんな大変な事になるなんて……

「……違うわ」
私は自分に嘘をついている。
あの子がどこかおかしくなっていることに、私は気がついていた。早く病院につれていくべきだった。

でも、認めなかった。一時的なもの。すぐ治る。元のつかさに戻ってくれる。
そんな根拠のない希望にしがみついた。

認めたくなかったんだ。つかさの心がおかしくなっているなんて。

(お姉ちゃんのうそつき!)
「アンタの言うとおりよ……つかさ」
その時、携帯の着信音が鳴った。




255 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 12:20:32.54  ID:Zmi8Ys0wO
携帯を手に取り、メッセージウィンドウに表示される名前を確認する。

「……こなた」
着信ボタンを押した。

『やふー、かがみ、家についてた?』
「……」
『あの後ゲーマーズに注文してたギャルゲが届いたの思い出してさぁ』
「……」
『慌ててアキバに寄って、また電車に乗ったら、偶然みゆきさんに会っちゃって』
「……」
『それで二人で相談して、つかさのお見舞いに行こうって話になってね~』
「……」
『でさ、つかさに何か食べたいモノあるか聞いてくんない?やっぱりアレ?バルサミコ酢パフェとか?』
「……」
『……もしも~し、かがみん、生きてるかーい?』
「……」
『あれ?間違い電話……はしてないか、アンテナも三つたってるし』
「……助けて」
『あ、聞こえた。もしもしかがみー。声聞こえてる~?』
「助けて、こなた……」 『……かがみ、どうしたの?』
「私、もうどうしたらいいかわからないよ……助けてこなた、みゆき」
私は堪えきれずに、携帯電話を持ったまま泣き出した。




266 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 13:54:07.53  ID:Zmi8Ys0wO
場所はこなたの家。
私、柊かがみ、こなた、みゆき。三人が三角形に座り、互いを視界に納めていた。
「つかさが……」
「……精神科病棟に入院、ですか」
デフォルトで猫笑い顔なこなた、冷静で穏やかなみゆき。
その二人が、さすがに驚きの感情を隠しきれずに呟いている。
私は小さくうなずいた。
この二人とは――つかさも含め――高校生活のほぼ全ての時間を共有した友人だ。
でも、その二人にさえ、「つかさが精神科に入院した」と告げることに、凄まじいほどの抵抗を感じた。
「本当は、絶対誰にも言わないつもりだった……でも、今日ベッドに縛られてるって聞いて、それで……」
私の声は自分自身にすら聞こえ辛いほど小さかった。この二人に喋ったことを聞いた、つかさは、家族はなんて思うだろう……。

「かがみさんは」みゆきがゆっくりと話し出した。

「精神科に通う事や入院する事が、隠すべきこと、恥ずかしい事だとお考えなんですか?」




270 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 14:11:37.49  ID:Zmi8Ys0wO
「え……?」
みゆきの質問に、私は間の抜けた声しか出せなかった。
「つかささんが、精神障害――最近は障がいとも呼びますが――になったことを、恥ずかしいことだとお思いなんですか?」
みゆきの顔は相変わらず穏やかでわずかに笑顔で、だけど話す内容が私には理解できなかった。

「ん~、みゆきさん、何が言いたいのか、よくわかんないよ」
少しこまった表情になったこなたが、私の思いを簡潔に代弁してくれた。
「そうですね……」
みゆきが少し考えながら言った。
「質問を変えますね。かがみさんは、つかささんがもし風邪で内科病棟に入院していたとしたら、私達に風邪だという事を隠しましたか?」




272 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 14:23:14.07  ID:Zmi8Ys0wO
「みゆきさん、それはさすがに極端だよ……」
お行儀悪くアグラをかいて座っているこなたが、ポリポリと頭を掻きながら言う。
「そうですね。わざわざ風邪で入院したことを言いふらす人もいないでしょうし」
みゆきが言う。

「みゆき、ゴメン……私、アンタが何を言いたいのか、よくわからない」
私は力なく呟いた。
「わかりました」
みゆきが少し膝をずらして楽な体勢になった。

「知っていますか?私達の身の周りに住んでいる人、その中の50人に一人は、なんらかの精神疾患をもっていることを」




277 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 14:36:57.94  ID:Zmi8Ys0wO
「ご、50人に一人!?」
「はい」
私の驚いた声に、みゆきは平然とした声で言った。
「ちょ、ちょっと待ってよ。50人に一人っていったら」
こなたが指を折りながら、何かを計算している。
「……私らのクラスが二つあったら、一人はそういう病気を持ってる人がいるってこと?」
「その通りです」みゆきは言った。
「今、日本には258万人、精神疾患を患っている方がいらっしゃいます」
私もこなたも声が無い。みゆきは続ける。
「それにアルコールや薬物、ギャンブル等の依存症ないしその予備群の方が、少なくとも200万人から300万人」
数のスケールについて行けない。
「もちろん、これには毎年三万人以上自殺される方は含めていません。そのうちの多くはうつ状態やうつ病とあるといわれていますが」




279 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 14:51:10.13  ID:Zmi8Ys0wO
「……みゆき、つまりこう言いたいワケ?」
私はなんとなく苛立ちながら言った。
「そんなにたくさんの人がかかる病気なんだから、つかさがかかっても全然おかしくないって」

「まったく違います」みゆきはキッパリ言った。
「言いたいのは私達の認識の方です。泉さんもかがみさんも、不思議に思いませんか?」
こなたと私を見て、みゆきは言った。

「それだけたくさん、精神疾患にかかっている人がいるのに、なぜ私達はその姿をあまり見ないのか。そして」
みゆきは続ける。

「なぜ会ったことも無い人々に、私達はネガティブなイメージを持っているのか」




282 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 15:06:47.87  ID:Zmi8Ys0wO
私とこなたは、ただみゆきの話を聞くしか無い。
「後者の答えは簡単ですね」
みゆきの言葉にようやくこなたが反応する。
「えっと……犯罪とか犯しやすくて、危険だから?」
私の方をチラッと見たのは気分を害さないか心配したからだろう。
「そうですね。よく聞く意見です」
みゆきがうなずく。
「テレビや新聞で、時折大きく報じられますね。理由もなく、脈絡もない、突発的な犯罪」
私はつかさが入院するきっかけになった出来事を思い出して、胃がギュッと絞めつけられる。
「でもさあ、あれネットとかで見ると、病気じゃない人が犯罪を起こす確率のほうが、統計的には多いって聞くけど」
こなたが私を気遣ったのか、援護するような意見を言った。




283 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 15:20:41.30  ID:Zmi8Ys0wO
「……それについても、様々な意見があるようですね」
みゆきは少しウェーブのかかった長い髪を手で後ろに払う。
「曰く、サギなどの知識を有する犯罪を犯さないだけで、殺人・放火・傷害などの危険な行為は、やはり犯す確率は高い、などという意見もあるようです」

私は以前、テレビや新聞で知った事件を思い出す。
突然、なんの関係も無い人々に凶器を向け、裁判では病気を理由に無罪を主張する人達。
なんて勝手なんだろうと思っていた。病気でもなんでも、自分の行為は自分で責任を負うべきだと。病気を言い訳にするなんて卑怯だと。

身内が、自分の妹が、その病気にかかるまでは。他人事であるまでは。




286 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 15:35:55.36  ID:Zmi8Ys0wO
「しかし、やはり泉さんが言われたように、精神疾患イコール犯罪、というイメージは、やはり誇大的だというのが真相のようですね」
みゆきは私を安心させるように笑いかける。私はそれに答えられなかったけど。

「最初の疑問に戻りますが……これほどありふれた疾患なのに、どうして私達の身の周りで、そういった方々を見ないのでしょう?」

私は無理に声を出した。
「入院してる……から?」

「半分正解、ですね」




289 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 15:53:28.72  ID:Zmi8Ys0wO
「ん~、半分ってどゆこと?みゆきさん」
こなたが本気で困ったような表情を浮かべる。珍しい。
「つまりですね」みゆきがまた座り直す。
「疾患を持っている方が258万人。入院を必要とするほどの重症でない方も含めてですが」
みゆきはメガネの奥から私を見つめた。
「かがみさん。今現在、精神科に入院されてる方は、どれくらいいらっしゃると思います?」
「わからないわよ……」

「約33万人だと言われています」
多いのか少ないのかわからないな、と思った私に、みゆきは続けて言った。

「そのうちの30%の方々は、10年以上入院されているんです」




292 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 16:20:46.35  ID:Zmi8Ys0wO
「「じ、10年以上!?」」
さすがに驚いて声をあげたら、こなたとハモった。

「はい」みゆきはうなずいた。
「日本のほぼ二倍の人口をもつアメリカでも、入院患者は日本のほぼ三分の一。その他の経済先進国と比べても……やはり入院患者数は突出しているようです」

「いや、でも……」
私は衝撃が大きすぎて、ついみゆきに質問していた。
「人口の違いもあるし、保険制度だって違うし、一概には言えないんじゃない?そういう事」
「いいえ」みゆきはピシャリ、と言った。
「明らかに日本は精神疾患患者を、治療ではなく隔離を前提とした政策を続けてきました。これには歴史的な裏付けがあるんです」
「歴史的な、裏付け…?」
私とこなたは顔を見合わせた。




296 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 16:33:22.00  ID:Zmi8Ys0wO
「先程アメリカを例にしたので、それの続きと言うわけでは無いですが……」
みゆきは一回咳払いする。
「1963年、大統領だったJ・F・ケネディは『精神病及び精神薄弱者に関する教書』を発表しました」

撃たれて暗殺された人だっけ、と曖昧な知識が浮かぶ。

「それ以来、施設ではなく地域で支援を、という施策が続いたせいで、そもそもアメリカにはあまり精神病院という収容前提の施設が無いんです」

「アメリカっていえば刑務所だらけってイメージあったけど、考えてみたら刑務所と病院は違うよね~」
こなたがもの凄い偏見に満ちた感想を言った。




301 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 16:49:21.04  ID:Zmi8Ys0wO
「それとは対照的な事件が、同時期に日本で起こりました」
みゆきはこなたの問題発言を聞かなかった事にしたらしかった。
「一年後の1964年――昭和39年――に起こった、いわゆるライシャワー事件ですね」

聞いた事があるような、無いような……。

「アメリカの駐日大使を、精神疾患患者の方が刃物で襲い、傷つけた事件です。結局大使は、この時に受けた輸血が元で肝臓を患い、後年亡くなりました」

全然知らなかった。

「それから日本は、精神疾患に対し、収容主義を取るようになりました」
「どうしてそれがわかるの?」こなたが聞く。
「病床数の増加です」みゆきがメガネの位置を直す。
「1954年には、精神病床は約3万床。ところが1965年には17万床。1970年には28万床。『精神病院ブーム』と言われた程です」




307 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 17:13:12.62  ID:Zmi8Ys0wO
淡々と数字を並べるみゆきに気を圧されながら、私は言った。
「で、でもそれだけ病院が立ったって事は、やっぱりそれだけ需要があったってことじゃ……」

「地域での受け皿や家族の理解の低さ、という観点からは、正にそうですが」
みゆきがちょっと話疲れたように紅茶を飲んだ。
「純粋な医学的観点から見ると、まったく話は逆になります」

私は不意に、この友人が医師を目指していることを思い出した。

「1955年にクロルプロマジン、1964年にハロペリドール、近年ではリスペリドン、オランザピン、アリピプラゾールといった第2、第3世代抗精神病薬が開発され、劇的に薬物治療の成果が現れ始めたんです」

モビルスーツの名前みたいだ、と呟くこなたに対して、私はみゆきにすがりつくように近寄った。

「な、治るの!?」




313 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 17:33:05.08  ID:Zmi8Ys0wO
つかさが、あの子が治る?元の、優しくて気弱なあの子に。
「話が遠回りしすぎましたけど」みゆきが珍しく苦笑した。

「もちろん、症状はよくなりますよ。かがみさん、『レナードの朝』という映画をご存じですか?」

「え?い、いえ、知らないけど」

「ロバート・デニーロが主演した映画なんですが……この映画の原作は、オリバー・サックスの『Awakenings』なんですけど」
私はおとなしくみゆきの話を聞く。
「この話は、先程言った新世代抗精神病薬によって劇的に症状がよくなり、かえって患者の方が戸惑う、『目覚め現象』という言葉の由来にもなっているんです」
「目覚め現象……」

その時、みゆきがふと私から目をそらしたが、その時の私は気がつかなかった。

つかさが治る。私の側に、家族の元に帰ってくる。
私はその希望で頭の中がいっぱいだった。




317 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 17:50:23.11  ID:Zmi8Ys0wO
「要するにさぁ、みゆきさん」
あまり話を理解していない感じで、こなたがポリポリと頬を人指し指で掻きながら聞く。
「つかさがちゃんと薬を飲めば、良くなる可能性は高いってことかな?」
成績はともかく頭の回転自体はとんでもなく早いオタク少女は、みゆきの渾身の演説をあっさり要約した。

「え、ええ……そのはずです」
みゆきが言う。
「ですが、私が最初にかがみさんに聞きたかったのは、良くなった後のことなんです」

「良くなった……後?」私はキョトン、とした。

「そうです」みゆきはまた真面目な表情になった。

「かがみさん。かがみさんとそのご家族は、つかささんの病気を受け止め、退院したつかささんを、受け入れることができますか?」




318 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 18:01:00.21  ID:Zmi8Ys0wO
「そんなの、当たり前じゃ……」

不意に、つかさの姿がフラッシュバックした。

『お父さんもお母さんも、お姉ちゃんたちもだいきらい!!』

『みんな、みんな死んじゃええぇぇぇぇぇッ!!』

「かがみさん?」「かがみ?」

みゆきとこなたが、心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「だ、大丈夫……」
私は目元を指で押さえて言った。

「つかさが良くなって、帰ってくるのを信じてる。私、あの子の双子……いえ、家族だもの」

こなたは不思議そうに、みゆきは心配そうに、私の顔を見つめていた。




322 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 18:13:14.99  ID:Zmi8Ys0wO
段々親指が利かなくなってきたので、少し休みます。すみません。




448 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 22:05:01.31  ID:Zmi8Ys0wO
「……ただいまー」
こなたの家を出たのが遅くなって、自宅についたのはもう八時過ぎだった。

「おかえりなさい、かがみ」台所からお母さんが現れた。
「遅かったのね……みんな、もう晩御飯済ませちゃったわよ」
「う、うん。ゴメン」

お母さんはこの頃ますます疲れた顔になってきた。
「残ってるもの、レンジで温めて……」語尾が消え入りそうだった。

リビングでは、お父さんが黙ってテレビの前に居た。
番組を見ているのかはわからない。普段、お父さんはポップスばかりの歌番組なんて見ないから。
「ただいまお父さん。姉さん達は」
「いのりは部屋に帰った。まつりは遅くなるらしい」




452 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 22:15:23.36  ID:Zmi8Ys0wO
私は黙々と温めなおした夕飯を一人で食べた。
テレビからは軽薄なトーク、薄っぺらな笑い声、聞いたような音楽。
お父さんは無言で画面を眺めている。

賑やかな家族だった。
無口だけど優しいお父さん。
いつもみんなの世話を焼いて忙しそうなお母さん。
クールだけど意外に面倒見がいい、いのり姉さん。
ちゃっかりしてて、いつも私達をからかって明るく笑う、まつり姉さん。

そして……。

この家はこんなに静かだった?こんなに広かった?こんなに寒々としていた?

『ご家族は、つかささんを、つかささんの病気を、受け止めてあげられますか?』
耳に、さっきのみゆきの言葉が響いていた。




465 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 22:28:43.94  ID:Zmi8Ys0wO
・・・・・・

腕が痛い。
足が痛い。
腰が痛い。
首が痛い。

体中の、全部の関節が痛い。
「はずしてえぇっ!コレはずしてよおぉぉっ!はずせえぇっ!」
叫びすぎて喉が痛い。
点滴の刺さった腕が痛い。
おしっこの管が痛い。

「なによぉ!なんでこんな事するのよぉ!なんでイジワルするのぉ!?」

女の人が時々来て、点滴を変えたりおしっこを袋から出したりして、私に声をかけたけど、絶対ベルトをはずしてくれなかった。

「いやだああぁぁぁぁッ!」

夜は暗い。夜は怖い。独りは怖い。

「助けてえぇぇっ!お母さぁぁんっ!お姉ちゃぁぁんっ!」




473 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 22:44:39.48  ID:Zmi8Ys0wO
誰も答えてくれない。
私を取り囲んでるのは機械だけ。

ジーッ、ジーッと点滴の管について、薬を送る機械。

私の胸についたシールから延びたコードの先で、よくわからない数字や線を映している機械。

プシュ、プシュ、と足に巻き付いて、定期的に膨らんで足の裏をマッサージする機械。

機械、機械、機械、機械、機械ばっかり。

「誰か……誰でもいいよ、お願い……助けてよ…」

『……だよ』『だから……』『……が』

あの『声』まで、不思議と小さくなっている。今はなんでもいいから聞きたいのに。

みんなに会いたい。お母さんに、お父さんに、いのりお姉ちゃんに、まつりお姉ちゃんに。

「……お姉ちゃん、こなちゃん、ゆきちゃん、お願い、助けて……」
私の声はかすれて、まるで違う人の声のように聞こえた。
「みんな、どうして私のこと、いじめるの……?」

なにも悪いこと、してないのに。




487 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 23:01:54.42  ID:Zmi8Ys0wO
・・・・・・
「いい加減にしなさいよ!」
はかどらない勉強を無理にしていた私の耳に、怒声が聞こえてきた。
「……いのり姉さん?」
部屋を出て玄関の方へ行く。
帰ってきたらしいまつり姉さんと、パジャマ姿のいのり姉さんが睨み合っていた。
「アンタ、よくこんな時に酔っぱらってられるわね!」
いのり姉さんがこんなに大きな声を出してるのを聞いたのは久しぶりだ。
「お酒飲んで何が悪いのよ!」
お化粧しても、顔が赤いのがわかるまつり姉さんが言い返す。
「前からの予定だったんだもん、しょうがないでしょ!」
「はん、大学生ってのは気楽でいいわね!」
「何よ!」

「止めないか二人とも!」
後ろから更に大きな声が響いて、姉さん達も、私ですら首をすくめた。

廊下の奥から、姉さん達を睨んでいるお父さん。その後ろでオロオロしているお母さん。

「……二人とも、もう夜遅いんだから、寝なさい」
抑えた低い声で言って、お父さんは部屋に戻っていった。

女が四人、しらけた空気の中、無言で立っている。

つかさを受け入れるべき家族。私達の家族。

「……本当に、受け止めてあげられるの?」

私の独り言に、誰も反応しなかった。




490 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 23:11:17.88  ID:Zmi8Ys0wO
翌日、学校の廊下を歩いていると、声を掛けられた。

「柊かがみさん?少し、お時間いただいて良いかしら?」
寝不足で頭痛のする頭で振り返る。
「……天原、先生?」
保健医の天原先生はニッコリ笑ってみせると、
「少し、お茶に付き合ってもらえないかしら?」
私を保健室に誘った。

「……はい」

多分、つかさの事なんだろうな……。




495 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 23:20:34.11  ID:Zmi8Ys0wO
「柊さん、ミルクは入れますか?」
「いえ、このままで……」

天原先生は茶道部の顧問も兼ねているけど、保健室では紅茶を飲んでいるところしか見たことが無い。

「どうですか?お味は」
「は、はい。美味しいです」
ニコニコ笑う天原先生の笑顔は大人の余裕たっぷりだ。
噂によると、この天原先生を『ふゆきちゃん』、私の担任の桜庭先生を『ひかるちゃん』と呼んでいる二年生がいるみたいだけど、私にはとてもそんな勇気は無い。
「私はミルクと砂糖を少し、ですね。疲れてる時は甘いものも良いですよ?」
天原先生は笑顔のまま、私に言った。
「……」




498 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 23:29:11.74  ID:Zmi8Ys0wO
「……天原先生」
「なんでしょう?」
暖かい笑顔。
「妹……柊つかさのこと、ご存じですよね?」
「はい」
この笑顔で、先生は。
「学校に電話があった時……」
「はい」

「……つかさの事を、保健所に電話したのは、天原先生ですよね?」

「はい、そうですよ」

天原先生は、相変わらず、笑顔だった。




503 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 23:39:19.48  ID:Zmi8Ys0wO
あの日。
帰り道の駅の側で、つかさは突然道路に飛び出した。

「な、なにしてるのよ、つかさ!危ないじゃない!」
「さっきの車だよ!さっきの車から『声』が流れてたんだよ!」
私は慌ててつかさを歩道に引きづりこんだ。
「つかさ!危ないって!何言ってるのよ!」
「早く!早くあの車を止めないと、また毒を入れられちゃうよぉ!」
つかさの体の上に乗って押さえていた私を、つかさは何度も跳ね飛ばそうとした。
「ダメだよお姉ちゃん!早く、早く追わないと!」
「つかさぁ!」
私は汗まみれになって、つかさを押さえ続けた。何時間にも感じられた。
やがて救急車のサイレンが近づき、つかさと私の隣に停まった。




509 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/09(火) 23:54:23.53  ID:Zmi8Ys0wO
「あの日、うちの高校の制服を着た女生徒が、道路でもみ合ってると、一般の方から通報がありまして」
天原先生の柔らかい声で、私は回想から覚める。

「どうも意味不明な事を叫んでいるというので、消防署に私が連絡しました」
どうして笑顔でいられるの?
「それから管轄の保健所にも連絡して、保健師さんに病院に行ってもらいました」
つかさは今、ベッドに縛られてるのよ?

「後は措置解除申請ですね……状態が良くなればいいんですけど」

「どうして……」
「はい?」

「どうしてつかさを入院させたんですか?」

初めて、天原先生の表情が曇った。




516 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/10(水) 00:07:23.97  ID:2TDgEquLO
天原先生は、それまでとはちょっと種類の違うような笑顔になった。
「柊さん?」
「はい……」
「もしあの一件が無かったら、つかささんは今でも普通に生活できていたと思いますか?」

私は唇を噛んだ。
わかってる。つかさは、あのままじゃもっとダメになっていた。
でも、私も、家族も精神科に連れていこうなんて、全然考えなかった。考えなかったんだ。
私は単に、天原先生に八つ当たりしているだけなんだ。
「もうひとつ」天原先生は人指し指を立てた。

「実はほとんど同時に、警察からも問合せがあったんですけど」
「え?」警察?

「『もう救急車を呼んだので大丈夫です』って、誤魔化しちゃいました」
天原先生はいたずらっぽく片目をつぶった。




519 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/10(水) 00:18:59.40  ID:2TDgEquLO
もしあの時、警察が来ていたら……。
私は正直寒気を感じた。
間違いなくつかさは、お巡りさん相手にも抵抗してただろう。
いくら小柄な女の子相手でも、あの勢いだったら、お巡りさんはつかさを、どうしただろう……?

「結局、医療保護入院じゃなく、措置入院になってしまったので、大変は大変ですけど……」
天原先生はちょっと残念そうに言う。

「保健所通報だったのは不幸中の幸い……と言ったら柊さんに怒られますね。でも正直、24条緊急措置だと、もっと面倒なんですよ」
措置?24条?
そういえば、あの時保健師さんが23条がどうとか……。
「天原先生。その、なんとか入院って、どういう意味があるんですか?」




521 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/10(水) 00:24:13.29  ID:2TDgEquLO
本気で親指の爪から血が出てきたよ……。
中途半端でごめんなさい。今夜は一旦終わります。明日仕事終わったら、続けます。落ちてたら同じスレタイ立てます。
保守してくれた人、ありがとうございました。




591 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/10(水) 12:21:51.87  ID:2TDgEquLO
電話で申し訳ない。パソコン持ってるんだけど、仕事の性格上ネットに繋げないんだ……
なるべく早く打とうとすると、親指の爪とボタンの間に肉を挟むようになって血が滲む……
いつも筆が遅くて、待ってる人本当にごめんなさい。今夜は遅くなるかも。




596 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/10(水) 12:36:47.31  ID:2TDgEquLO
論文とか書く時はパソコンで打って推敲できるんだけど、携帯だと上の画面が切れて前の文がわからなくなってしまうんだ。
時々文が変なのは、文才が無いだけが理由じゃないかも、と言い訳してみる電話。




660 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/10(水) 20:18:13.39  ID:2TDgEquLO
残業が終わったあああーっ!
帰れるぞーーッ!




679 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/10(水) 21:42:46.62  ID:2TDgEquLO
私の問いに、天原先生は少し唇に指を当てて考え込んだ。
知らないのではなく、どう説明すべきか、迷っているような様子。

「柊かがみさんは、確か……法学部志望でしたね?」
「え?あ、はい、そうですけど……」
どうして保健医の天原先生が私の進路希望を知ってるのかとびっくりしたが、考えてみれば担任の桜庭先生から聞いたのだろう。友人らしいから。

「でしたら、知っておいても損は無いかもしれませんね」
天原先生は続ける。

「柊かがみさん、つかささんが入院される時、保健師さんが入院に関しての事を詳しく説明してませんでしたか?」
「はい……」

まるで外国映画で、悪人が刑事に逮捕される時、『お前には黙秘権がある』と言っているシーンとダブッて不快だった。

「措置入院とは、他の入院形態と比べて、少し特殊なんですよ」




683 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/10(水) 21:52:59.88  ID:2TDgEquLO
「そもそも、精神科と他の科に入院される患者さんの、一番の違いはなんだと思います?」

「……病気なのが、体じゃなく、心、なことですか?」
私の気弱な答えに、天原先生は「違いますね」とあっさりダメ出しした。

「正解は、『自分を病気だと思っていない』、です」

「あ……」

『私、どこも悪くないよ!』
『入院なんかしない』
『帰ろう、お姉ちゃん』

「自分を病気だと認識できない……病識がない、と言いますが、そういう方を入院させるための法律が」
天原先生は一息ついて言った。
「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律、いわゆる精神保健福祉法ですね」




685 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/10(水) 22:04:23.98  ID:2TDgEquLO
「精神科の最大の特徴は、本人の同意が得られなくても、強制的に入院させられることです」
天原先生の流暢な説明を聞きながら、私は泣き叫びながら押さえ込まれる、つかさの姿を思い出していた。

「医療保護入院というのは、患者の保護者の同意があった時に入院させられる形態ですね。お茶、もう一杯いかがです?」

一瞬話の繋がりを見失ったけど、自分が冷えたティーカップを握り締めていたことに気づいて、慌てて遠慮した。

「そうですか……話を戻しますが、つかささんの入院形態は、もう少し厄介なんです」

「措置入院、ですか」
私は少しイスに座ったまま、前に体を進めた。
「それってどんな入院なんですか?」




688 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/10(水) 22:16:57.22  ID:2TDgEquLO
「つまり」天原先生は説明を続けた。

「本人どころか、保護者の同意が無くても、病院に強制的に入院させる形態です」
「誰の同意も無しに、ですか?」
私は少し信じられなかった。それじゃ、私だって誰かに病院に強引に入院させられる可能性もあるってことじゃない?

「さすがに、そんな乱暴な話じゃないですよ」
天原先生は苦笑して言った。
「その人が、間違いなく精神的な障害を持っていると診察できる医師、精神保健指定医の、それも二人の診察の結果、疾患があると判断されなければ、入院はさせられません」

先生の話に、頭痛が少しひどくなってきたけど、我慢して質問を続ける。
「その、23条とか24条っていうのは……」

「病院に通報した機関の違い、によるものですね」




698 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/10(水) 22:30:19.17  ID:2TDgEquLO
「これは大雑把な分け方で、正式な呼び方ではないようですが」
天原先生は長くて黒い前髪を少し気にするような仕草をする。
「第23条が保健所通報、第24条が警察官通報、第25条が検察官通報、第26条が刑務所通報、と呼ばれるようですね」

私は呆気にとられた。
「警察に検察に、刑務所、ですか?」言葉にすると、物騒な響きだと思った。

「はい。それぞれの機関で精神疾患を疑われる人物がいた場合、精神科に通報して診察を仰ぐわけです。いわゆる、触法患者と呼ばれますが」

「え、ええと、つかさの場合は、その……」
「23条、保健所通報。触法ではありませんね。単に一般人の通報で、保健所所長が依頼しただけですから」
天原先生は涼しい顔で、紅茶を一口含んだ。




701 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/10(水) 22:43:11.73  ID:2TDgEquLO
私は天原先生の、いかにも大和撫子然とした、和風でおとなしそうな顔を見ながら少し驚いていた。

あの時のつかさを警察官が見たら、間違いなく力ずくで『保護』したに違いない。
双子の妹が手錠をはめられている姿を想像して、少し身震いする。
そう、決してありえないことじゃなかった。

それを、天原先生が先回りして消防署や保健所に連絡してくれたお陰で、あれだけの騒ぎで済んだんだ。

私の視線に気づいたのか、天原先生は珍しく、いたずらっぽく笑った。

「他の人には内緒ですよ?これ、ある意味ズルなんですから」
「天原先生……」
「まあ、可愛いい生徒を守るためなら、なんでもしますけどね」




706 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/10(水) 22:56:11.76  ID:2TDgEquLO
「……先生には感謝します。でも……」
「やっぱり納得はいきません、か?」
天原先生は柔らかく私に言った。
「私、つかさとは双子で、あの子は昔から要領が悪くて、でも優しくて……」
私、何を言いたいんだろう。
「なんで、どうして、よりによってつかさなんですか?どうしてあの子なんですか?」

天原先生はただ優しく、泣いている私を見守ってくれていた。




730 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/11(木) 00:33:09.95  ID:RH1C5qF8O
「……天原先生が?」

みゆきが少し驚いたように言った。

今日も私達三人、こなた、みゆき、そして私、柊かがみは学校が終わったあと、こなたの家に集まっていた。
天原先生から聞いた話を伝えるため、みんなの意見を聞くため。

……違う。自分に言い訳しても仕方がない。
認めよう。私はつかさのいない、あのギスギスした家に帰りたくなかったんだ。

「ふ~ん、ゆーちゃんは優しい先生だって言ってたけど、やる時はやるんだね~」
こなたが相変わらず間延びした声で言った。

変わらないことこそが、今の私の救いだと知っているように。




735 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/11(木) 00:43:52.99  ID:RH1C5qF8O
「それにしても、さすがに保健医の先生ですね」
みゆきが感心したように言う。
「普通、そこまで詳しく知らないと思いますよ」

ツッコミを待ってるの?みゆき。

「まあ、入院がなんちゃらかんちゃらっていうのは、わかったけどさ」
間違いなくあまりわかっていない口調で、こなたが言う。
「結局、つかさの病気ってどんなんなの?」

……。

「あ、あれ?なんか、まずいこと言っちゃったかな?」
こなたが珍しく焦った顔で言った。




738 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/11(木) 00:53:57.92  ID:RH1C5qF8O
「……かがみさん、お医者さんは、なんとおっしゃっていたんでしょうか」
気まずい沈黙のあと、みゆきが私に聞く。

「混乱してて、詳しくは覚えてないんだけど……」
私は自分の制服についたホコリを摘みながら言う。
「統合失調症の急性期か、急性一過性精神病性障害の可能性が高い、って……」

「急性とか失調とか、なんか難しい名前だねぇ……」
こなたが呆れたように言う。
「で、それってどんな病気?いつ治るの?」

……。

「な、なんで私が喋る度、みんな黙っちゃうかなぁ!?」




744 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/11(木) 01:04:55.05  ID:RH1C5qF8O
「後者の急性一過性精神病性障害なら」
みゆきが咳払いしたあとに言った。
「さほど心配はいらないと思います。主にきっかけとして、ストレスが元で色々な症状が出ますが、すぐに良くなって後遺症も残らないですから」

やっぱり、しっかり調べてるわね。

「ふむふむ」こなたが座ると床につきそうな、長い髪を気にしながらうなずく。

「それで、もうひとつの、統合失調症ってのはどんな病気?」

「……泉さん?」
「み、みゆきさん、笑顔なのに目が怖いよ?」





746 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/11(木) 01:09:56.09  ID:RH1C5qF8O
ゴメン、指は大丈夫だけど今日はあまり書けなかった……
残り少ないけど、落ちたら同じスレタイでまた立てようと思うので、もし読みたいと思ってくれる人がいたら、待っててくれるとありがたいです。
保守してくれた人、ありがとう。




792 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[] 投稿日:2008/12/11(木) 09:51:12.38 ID:ExPqqDDdO
あの素晴らしい愛をもう一度
柊つかさが精神科に入院した。792  





861 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/11(木) 21:46:40.97  ID:RH1C5qF8O
・・・・・・
もう、ベッドの上に縛られて、何日ぐらいたつのかな。
相変わらず腕から点滴でお薬を入れられて、おしっこの穴から管で出してるだけ。

……お薬?

違う違う違う違うあれは毒だ、毒なんだ。そうでしょ?
『 』『  』『 』
あれ?なんで『声』が聞こえないの?何か言ってよ。何か言ってよ。何か言ってよ。アナタが私に教えてくれたんでしょ?

「このままじゃ不味いですよ……」「食事も薬も、経口駄目?」「液剤もザイディスも、全部口から出しちゃって……」「マーゲン、やる?」「大丈夫かな……」

うるさい。うるさい。アンタ達は呼んでない。私は『声』が聞きたいの。
「柊さん。口から食事や薬を入れてもらえないので、鼻からチューブを入れて、直接胃に送り込みますけど、かまいませんか?」
そんなこと、できるもんか。
「やるか……。キシロカインゼリー、準備して」

……え?




868 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/11(木) 22:01:38.44  ID:RH1C5qF8O
「え?……な、なに、ゲホッ!ガハッ!」
もうこれ以上ひどいことにならないなんて、私はなんで勘違いしてたんだろう。
「や、やめ……ゲホゲホッ!」

私の鼻の穴から、ヌルヌルしたのがついた管が押し込まれてきた。

「い、いた……ゲフッ!痛い、鼻の奥が痛いってば!やめ、ゲェッ!!」
「柊さん、喉まで来たら、飲み込むようにしてください。気道に入ったら大変ですよ」

「グェッ!ゲホッ!……お、お願い……やめ、やめて、助けて……ゲホッ!!」

「胃に空気入ってる?」「確認しましたー」


お姉ちゃん、助けて、助けてよ、お姉ちゃん







874 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/11(木) 22:14:55.65 ID:ZVjKL1oj0
お姉ちゃーーーーーーーーーん
柊つかさが精神科に入院した。874






893 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/11(木) 23:05:20.15  ID:RH1C5qF8O
・・・・・・
みゆきはしばらく、こなたを呆れたように見ていたけど、やがて諦めたように説明を始めた。
「統合失調症は、精神疾患の中でも、双極性気分障害――いわゆる躁うつ病――と並ぶ、代表的なものですね」
「代表的って言っても、あんまり聞いたこと無いような……」
こなたが首を傾げる。
「少し前までは、精神分裂病と呼ばれていました」
みゆきの言葉に、こなたの顔が緊張する。
「前にも少し触れましたが、発病率は約1.0%から1.5%」
こんなに数字を暗記しているみゆきが、なぜ文系クラスにいるのだろう?という普段からの疑問が、こんな場合なのに頭をかすめた。




899 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/11(木) 23:19:53.50  ID:RH1C5qF8O
「その、統合失調症って、その」
なかなか言葉にならない私の思考を読み取ったように、みゆきは続ける。
「生物学的遺伝的素質に、生育史上の問題やストレスが加わって発病する、と考えられています」
「遺伝……」
「ちなみに、患者さんから見て」
みゆきは、淡々と続ける。
「兄弟や子供の発病率は約10%、両親とも統合失調症の子供で約40%、一卵性双生児で40%から50%」
ちなみに私、柊かがみとつかさは、二卵性双生児だ。
「神経伝達物質である、ドーパミンによって作動するドーパミン系神経ニューロンの過剰活動、最近ではセロトニンや、他の神経伝達物質との関連も考えられています」
つまり、とみゆきは言った。

「心の病というより、もっとも純粋な体の病気とも言えるかも知れませんね」

うんうん、と無意味にうなずくこなたを責められない。私だって半分もみゆきの話を理解できてないもの。




913 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/11(木) 23:37:24.76  ID:RH1C5qF8O
「次に、症状ですが」なんとなくみゆきが講義口調になってきた気がする。
「いろいろな妄想、幻覚、緊張性の興奮など、いろいろなタイプがあるようです。一口には言えませんね」
「そこをあえて一口で!」こなたが音をあげたように言った。

「えっと……」
みゆきは少しの間、視線を宙に泳がせた。
「幻覚では、幻聴が多いようですね」

『私をバカにする、声が聞こえるんだよ』

「妄想は、被害妄想など、誰かに見られているとか、追われているとか、毒を盛られているとか」

私はヒュッと息を吸い込む。

「アメリカの精神医学会で作成された、DSM-IV-TRや、WHOで定められたICD-10など、いろいろな診断基準はありますが……今、素人の私達がどうこう言っても、仕方がない問題、ではありますね」




921 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/11(木) 23:54:07.75  ID:RH1C5qF8O
そう、今私が一番聞きたいのは……

「みゆき、入院した場合、どんな治療をするかわかる?」
「ええ、だいたいは」
みゆきはあっさり言った。
「薬の服薬。服薬の必要性の説明、及び服薬の練習」

「『薬の服薬』って意味が被ってる気がするけど」こなたが言った。
「なんだか薬ばっかりだねぇ」
「他にも支持的精神療法、認知行動療法、精神分析的精神療法、様々な治療法がありますが」
みゆきは全然舌を噛まずに言ってのけて、
「でもやはり、薬物による治療がメインでしょうね。前にも言いましたが、最近の抗精神病薬の効果は絶大です」
この子、わざわざ医大に行く必要あるんだろうか……?




925 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/12(金) 00:08:16.85 ID:9IMvfC8cO
「薬の大事さはわかったんだけど、あの」

『私、病気なんかじゃない!』

「……自分が病気だと思わない場合、薬を飲まないってことも、有りうるじゃない?そんな時はどうするの?」

みゆきは少し驚いたような顔をした。

「そうですね……精神科に限らず、医療現場でのコンプライアンス――最近ではエビデンスやアドヒアランスと言いますが――は、重要視されています」
「みゆきさん、日本語で……」
こなたが小さな声で言う。珍しく私とこなたの意見がさっきから合いすぎだ。

「つまり、治療の必要性、目的、副作用などの、治療側と彼治療側との徹底した周知、話し合い、でしょうか」
みゆきが続ける。
「要するに、薬を飲むことを本人に納得してもらうことが大事ということですね。でなければ、強制的に飲ませてもあまり意味はありません」





926 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/12(金) 00:13:31.20 ID:9IMvfC8cO
前レスでもありましたが、パー速に次スレ立てたほうがいいでしょうか?
もう半分以上は話が進んでますが、これ以上電話の遅さに皆さんを付き合わせるのも申し訳ないので。
御意見をうかがいたいです。




935 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/12(金) 00:21:25.97 ID:9IMvfC8cO
パー速という意見が多いようなので、同名のスレタイで立ててみようと思います。初めてですが。


785愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票 :2008/12/11(木) 08:16:08.80 ID:BrPiX+QEO
たしかに引き込まれるし、1の知識はすごい。
けど…何かこれ、精神病の人はみんなこう、みたいな感じに思う人が出そうで心配になったよ。
実はみんなの周りにもそういう人が居るかもしれないし、こういう創作にしてももっと扱いに注意した方が良い気がする…
(携帯・長文ごめん)







940 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/12(金) 00:31:36.65 ID:9IMvfC8cO
ちなみに、こういうSSは、読んだ人がそれぞれ自由に受けとって楽しむ、というのが当たり前、かつ健全だと思うのですが、個人的には
 >>785のような方にこそ読んでもらえたらなぁ、と思ってこなたが欝、かがみが拒食を書きました。
まさか三つも書くなんて、本気で予想してなかったですけどね。




953 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/12(金) 01:13:40.49 ID:9IMvfC8cO
基本パー速。要望があればVIPということで。
今夜は広げた風呂敷の、上手な畳みかたを考えてみます。




964 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/12(金) 01:35:00.19 ID:9IMvfC8cO
決めました。
電話の遅さと保守する人の大変さを考えて、パー速に行きます。
今夜はもう少し資料(紙媒体)を広げて勉強するので、必ず明日にパー速に立てます。
保守してくれた人、こんな拙い文章を保守してくれて、本当にありがとうございます。絶対に完結させます。


967以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/12(金) 01:38:48.33 ID:huOAc4G30
じゃこのスレで終わりで
続きは明日パー速ってことか
 

972 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/12(金) 01:55:40.85 ID:FhE6fcdVO

柊つかさが精神科に入院した。972a

柊つかさが精神科に入院した。972b



973以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/12(金) 02:06:26.10 ID:olh+SPa1O
やめろwwwwww

977以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/12(金) 03:00:47.09 ID:9JyCXcOW0
>>1
パー速でも失速しないように応援してるよ



986以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/12(金) 03:32:00.83 ID:VogImEloO
みゆきさんが主役のSSって無いよな
大体説明役とか
でも>>1


987以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/12(金) 04:18:34.55 ID:VqqE0NWUO
>>1
俺はVIPでやって欲しかったが

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[ 2008/12/16 17:30 ] らきすた | TB(0) | CM(0)
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